痴人の愛
痴人の愛
阅读时间:2024年10月28日
感想
买了个kindle scribe,原来的kindle格式化了,这里的生词没有保存233333。这几节也是整个作品的重要转折点,让治在放弃培养直美“无可救药”的智力之后,转而想将她打造成为一个有着西洋美的女人。然而直美却在这条道路上野蛮放荡地直奔着,让治无法追上她的步伐。堕入了地狱,缺少了灵魂的美,只是肉体的美,然而这团肉体的内在却是腐烂的。看到这里我感觉被作者给狠狠恶心了一番,感觉自己就在阅读一个毫无营养的“小黄文”。确实,这是一部小黄文——调教,寝取られ,变态放纵。然而这部作品何以成为这位大文豪的早期代表作,成为诺贝尔文学奖的提名作品,我实在无法理解。直美这个角色,让我想起了阿尔志跋绥夫的《萨宁》的开场白——人生中最重要的时期,就是在与人和自然最初冲突的影响下形成性格的时期,而这个时期,弗拉基米尔·萨宁却是在家庭之外度过的。没有任何一个人监督过他,没有任何一只手管教过他,这个人的灵魂是自由自在地形成的,就像旷野里的一棵树。直美就像一棵生长在野外的树,作为培育者的让治选择错误的方式去栽培这棵树,让其他人乘机去“肆意浇灌”。我歇了几天,都无法重新捧起这本书,让我难受了好几天,放佛一个心理重担,压在我的灵魂之上。在这里我想起了之前的一句话——日本文学就是自虐狂的盛宴,让读者读得越来越小,越来越崩溃。总之我无法理解。但我还是继续尝试着读下去。上次让我郁闷良久的是夏目漱石的《心》,这次更让我“失望难过”和“无法自拔”,感觉陷入了心灵险恶的泥潭。
語彙
一
- ざっくばらん 直率,坦率,爽快;心直口快,直言。 私はこれから、あまり世間に類例がないだろうと思われる私達夫婦の間柄に就いて、出来るだけ正直に、ざっくばらんに、有りのままの事実を書いて見ようと思います。
- 足かけ あしかけ 前后大约。 私が始めて現在の私の妻に会ったのは、ちょうど足かけ八年前のことになります。
- 技師 ぎし 技师,工程师。 ここで私は、私自身の経歴を説明して置く必要がありますが、私は当時月給百五十円を貰っている、或る電気会社の技師でした。
- 総領 そうりょう 头生儿;初生子女;长子。 それに私は、総領息子ではありましたけれども、郷里の方の親やきょうだいへ仕送りをする義務はありませんでした。
- 境涯 きょうがい 境遇,处境,地位。 私は全く自由な境涯にあったのです。
- 娯楽 ごらく それで私の娯楽と云ったら、夕方から活動写真を見に行くとか、銀座通りを散歩するとか、たまたま奮発して帝劇へ出かけるとか、せいぜいそんなものだったのです。
- 橋渡し はしわたし 桥梁,中人;搭桥,当介绍人。 先ず第一に橋渡しと云うものがあって、それとなく双方の考をあたって見る。
- 方正 ほうせい 方正,端正。 田舎者ではありますけれども、体格は頑丈だし、品行は方正だし、そう云っては可笑しいが男前も普通であるし、会社の信用もあったのですから、誰でも喜んで世話をしてくれたでしょう。
- 朝夕 あさゆう 早晚,朝夕。 発育 はついく 发育,成长。 のみならず、一人の少女を友達にして、朝夕彼女の発育のさまを眺めながら、明るく晴れやかに、云わば遊びのような気分で、一軒の家に住むと云うことは、正式の家庭を作るのとは違った、又格別な興味があるように思えました。
二
- 下戸 げこ 不会喝酒的人,酒量小的人。 こう云うとひどく酒飲みのようですけれど、実は私は甚だ下戸の方なので、時間つぶしに、女の飲むような甘いコクテルを拵えて貰って、それをホンの一と口ずつ、舐めるように啜っていたのに過ぎないのですが、そこへ彼女が料理を運んで来てくれた
- 戸外 こがい 户外;室外。 ああ成る程、それで彼女は家にいるのが嫌だものだから、公休日にはいつも戸外へ遊びに出て、活動写真を見に行ったりしたんだなと、事情を聞いてやっと私もその謎が解けたのでした。
- 借家 しゃくや 租房,租的房屋。 話が極まると直きに彼女はカフエエから暇を貰い、毎日々々私と二人で適当な借家を捜しに歩きました。
- 晩春 ばんしゅん 晚春,暮春,阴历三月。 晩春の長い一日をあっちこっちと幸福そうに歩いていたこの二人は、定めし不思議な取り合わせだったに違いありません。
- チューリップ tulip郁金香。 「あたし、チューリップが一番好きよ」
- 挿絵 さしえ 插图,插画。 多分ナオミは、その子供らしい考で、間取りの工合など実用的でなくっても、お伽噺(とぎばなし)の挿絵のような、一風変った様式に好奇心を感じたのでしょう。
三
- 新居 しんきょ 私たちはしばらくの間、この珍らしい新居にふさわしいいろいろの家具を買い求め、それらをそれぞれ配置したり飾りつけたりするために、忙しい、しかし楽しい月日を送りました。
- よりけり …によって決まる(ことで、一概には言えない)。 「そりゃ田舎にもよりけりだよ、僕の家なんか草深い百姓家で、近所の景色は平凡だし、名所古蹟(こせき)がある訳じゃなし、真っ昼間から蚊だの蠅(はえ)だのがぶんぶん呻って、とても暑くってやり切れやしない」
四
- 肩身 かたみ 面子对于他人的脸面。 肩身が広い。有面子。感到自豪。 肩身が狭い。 没面子。感到丢脸。 が、そんなことをいうと却って彼女が肩身の狭い思いをするであろうと察して、「ま、今年は二三日で我慢をしてお置き、来年は何処か変ったところへゆっくり連れて行って上げるから。───ね、いいじゃないか」
- 富貴 ふうき 何かしら彼等の富貴を物語るものが示されているのに、ナオミの手にはその滑かな皮膚より外に、何一つとして誇るに足るものは輝いていなかったのです。
- 四肢 しし 正直なところ、私はどんなに彼女の四肢の整っていることを喜んだでしょう。
五
- 行水 ぎょうずい 洗澡、冲凉。 これはナオミがねむがったりして銭湯へ行くのを大儀がったものですから、海の潮水を洗い落すのに台所で水を浴びたり、行水を使ったりしたのが始まりでした。
- 行く末 ゆくすえ 将来,前途。 ナオミの眼には涙が流れていましたが、いつか私も泣いていました。そして二人はその晩じゅう、行くすえのことを飽かずに語り明かしました。
- 掛け合い かけあい 交涉,谈判。 で、おおびらの結婚は二三年先の事にしても、籍だけは早くこちらへ入れて置きたいと思ったので、千束町の方にも直ぐ掛け合いましたが、これはもともと呑気な母や兄たちですから、訳なく済んでしまいました。
- 裂地 切れ地 きれじ 布匹,织物,一块衣料。 こんな話の末に、私たちはよく連れ立って方々の呉服屋や、デパートメント・ストーアへ裂地を捜しに行ったものでした。
- 合いの子 あいのこ 混血儿。 「混血児かしら?」
六
- 依怙地 いこじ 固执。 私は多少依怙地にもなって、前にはほんの三十分ほど浚ってやるだけだったのですが、それから後は一時間か一時間半以上、毎日必ず和文英訳と文典とを授けることにしたのでした。
- 根負け こんまけ 坚持不住,忍耐不住。 ナオミは一旦そう云う風に曲り出したら驚くほど強情で、始末に負えないたちでしたから、最後は私が根負けをして、うやむやになってしまうのでした。
七
- 愛慕 あいぼ その時分、私の胸には失望と愛慕と、互に矛盾した二つのものが交る交るせめぎ合っていました。
- よしや = たとえ よしや自信と云う程でなく、単なるうぬぼれであってもいいから、「自分は賢い」「自分は美人だ」と思い込むことが、結局その女を美人にさせる。
- せせら笑う せせらわらう 嘲笑,冷笑。 「ふん」と、例の鼻の先で生意気そうにせせら笑います。
八
- 引けを取る 落后于人,相形见绌,逊色(多用于否定形式,意思是“不次于……”) あの鎌倉へ行った時分とは訳が違うから、彼女を立派に盛装させて社交界へ打って出たら、恐らく多くの婦人の前でもひけを取るような事はなかろう
- 伯爵 はくしゃく 夫の伯爵は革命騒ぎで行くえ不明になってしまい、子供も二人あったのだそうですが、それも今では居所が分らず、やっと自分の身一つを日本へ落ちのびて、ひどく生活に窮していたので、今度いよいよダンスの教授を始めることになったのだそうです。
- 慶応義塾 慶應義塾 けいおうぎじゅく そして幹事になったのがあの浜田と云う、慶応義塾の学生でした。
- 慎ましやか つつましやか 谦恭,恭谨,彬彬有礼,恭敬,腼腆。 この婦人連を取り巻いて、つつましやかに自分の番を待ち受けている人々もあり、中には既に一と通りの練習を積んだらしく、てんでに腕を組み合わせて、稽古場の隅を踊り廻っているのもあります。
- 晴れがましい はれがましい 盛大,豪华。 どやしつける 臭骂一顿。 それでなくても晴れがましい場所へ出たことのない私は、この婦人たちの眼の前で、あの西洋人にどやしつけられる刹那を思うと、いかにナオミのお附き合いとは云いながら、何だかこう、見ているうちに冷汗が湧いて来るようで、自分の番の廻って来るのが恐ろしいようになるのでした。
- 重役 じゅうやく 重要职位,重位;重任者。 この人たちは大概あの、東洋石油株式会社の社員の方が多いんです。杉崎先生の御親戚が会社の重役をしておられるので、その方からの御紹介だそうですがね
- 切り口上 きりこうじょう 拘束呆板的口吻,郑重其事的口吻。 私は何と挨拶したかハッキリ覚えていませんが、多分口の中でもぐもぐやらせただけだったでしょう。この、「わたくし」と云うような切口上でやって来られる婦人連が、私には最も苦手でした。
- オペラ opera歌剧。
九
- 腋臭 わきが 「あの女アひでえ腋臭だ、とてもくせえや!」
- 花園 はなぞの それは私に、まだ見たこともない海の彼方の国々や、世にも妙(たえ)なる異国の花園を想い出させました。
- 発議 ほつぎ 提议; 倡议。 尤もそれはナオミがどこからか噂を聞いて来て「是非行って見よう」と発議したので、まだ私にはおおびらな場所で踊るだけの度胸はなかったのです
- 図々しい ずうずうしい 厚颜无耻的。 そんな気の弱いことを云っているから駄目なのよ。ダンスなんて云うものは、稽古ばかりじゃいくらやったって上手になりッこありゃしないわよ。人中へ出てずうずうしく踊っているうちに巧くなるものよ
- 締め高 しめだか 合计,总计。 方々から持って来る請求書の締め高が、よくもこんなに喰べられたものだと、驚くほど多額に上ったのです。
- しゃなりしゃなり (举止)装作优雅、矫揉造作。 昔は女学生らしく袴をつけて靴で歩くのを喜んだ癖に、もうこの頃では稽古に行くにも着流しのまましゃなりしゃなりと出かけると云う風で、
- 遣り繰り やりくり 设法安排,筹划,筹措,通融。 そんな事情で遣り繰りに困っていたところへ、この頃又シュレムスカヤ夫人の方へ四十円ずつ取られますから、この上ダンスの衣裳を買ってやったりしたらにっちもさっちも行かなくなります。
十
- 巧者 こうしゃ 手巧、灵巧处理事物巧妙,也指其人。 浜田は茶っぽい背広を着て、チョコレート色のボックスの靴にスパットを穿いて、群集の中でも一と際目立つ巧者な足取で踊っています。
- 一名 いちめい 别名,又名。 「本名を熊谷政太郎、一名をまアちゃんと申します。───」
- 以下略
十一至十三
买了个kindle scribe,原来的kindle格式化了,这里的生词没有保存233333。这几节也是整个作品的重要转折点,让治在放弃培养直美“无可救药”的智力之后,转而想将她打造成为一个有着西洋美的女人。然而直美却在这条道路上野蛮放荡地直奔着,让治无法追上她的步伐。堕入了地狱,缺少了灵魂的美,只是肉体的美,然而这团肉体的内在却是腐烂的。看到这里我感觉被作者给狠狠恶心了一番,感觉自己就在阅读一个毫无营养的“小黄文”。确实,这是一部小黄文——调教,寝取られ,变态放纵。然而这部作品何以成为这位大文豪的早期代表作,成为诺贝尔文学奖的提名作品,我实在无法理解。直美这个角色,让我想起了阿尔志跋绥夫的《萨宁》的开场白——人生中最重要的时期,就是在与人和自然最初冲突的影响下形成性格的时期,而这个时期,弗拉基米尔·萨宁却是在家庭之外度过的。没有任何一个人监督过他,没有任何一只手管教过他,这个人的灵魂是自由自在地形成的,就像旷野里的一棵树。直美就像一棵生长在野外的树,作为培育者的让治选择错误的方式去栽培这棵树,让其他人乘机去“肆意浇灌”。我歇了几天,都无法重新捧起这本书,让我难受了好几天,放佛一个心理重担,压在我的灵魂之上。在这里我想起了之前的一句话——日本文学就是自虐狂的盛宴,让读者读得越来越小,越来越崩溃。总之我无法理解。但我还是继续尝试着读下去。上次让我郁闷良久的是夏目漱石的《心》,这次更让我“失望难过”和“无法自拔”,感觉陷入了心灵险恶的泥潭。
十四
- くだくだ 絮烦,絮叨,叨叨,叨唠。 その夜の二人の寝物語は、別にくだくだしく書くまでもありません。
- 一笑 いっしょう 一笑置之,不当回事。 一笑に付する(ふする) 「まあ、失敬な! 何て云う物を知らない奴等だろう!」と口汚く罵って一笑に附してしまいました。
- 詮議 せんぎ 审议、讨论审讯罪人。 強いて過ぎ去った事までも詮議立てする必要はない、これから先を注意して監督すればいいのだと、………
- 二の足を踏む 犹豫不决。 そして涙と接吻の中から、すすり泣きの音に交って囁かれる声を聞いていると、嘘うそではないかと二の足を蹈みながら、やっぱりそれが本当のように思われて来るのでした。
- 蓄音器 ちくおんき レコード盤に録音された音を再生する装置。◇一八七七年、アメリカのエジソンが発明した。 私が会社から帰って来ると、独りで大人しく留守番して、小説を読むとか、編物をするとか、静かに蓄音器を聴いているとか、花壇に花を植えるとかしている
- 浮かぬ顔 うかぬかお 不高兴的面孔,忧闷的面孔。 「どうでも───譲治さんが行きたいなら、───」と、浮かぬ顔つきで生返辞をしたり。
- へたばる 趴下,精疲力尽;气馁,沮丧。 そして彼女は、私がへたばってしまうまではそのいたずらを止めないのでした。
- にべもない 冷淡的,不讲情面的。 「いやだわ、あたし」と、ナオミはにべもなく云いました。
- 禁物 きんもつ 严禁,忌讳。 「この暑いのにダンスなんか禁物だわ、又そのうちに涼しくなったら出かけるわよ」
- ばつが悪い 尴尬,不好意思。 ナオミも浜田も熊谷も、一としきり黙り込んでしまったので、私はどうもそう云わなければ、バツが悪いような気がしました。
十五
- 肌合い はだあい 性情,性格,气质。 手感。 サッパリとしたこだわりのない、青年らしい肌合が、愉快でないことはありませんでした。
- 蓮っ葉 はすっぱ (女人的举止)轻佻,轻浮,荡妇。 ナオミの態度も、人をそらさぬ愛嬌はあって、蓮ッ葉でなく、座興の添え方やもてなし振りは、すっかり理想的でした。
- 日盛り ひざかり 一天中阳光最烈时尤其指夏天午后最热时。 夏の日盛りの暑いさなかを一日会社で働いて、それから再び汽車に揺られて帰って来る身には、この海岸の夜の空気は何とも云えず柔かな、すがすがしい肌触りを覚えさせます。
十六
- 下検分 したけんぶん 预先检查。 触れ込み ふれこみ 事先宣扬,预先宣传。 植惣のかみさんの話に依よると、彼女が始めて下検分に来た折には、熊谷の「若様」(わかさま)と一緒にやって来て、あたかも「若様」の一家の人であるかのように振舞っていたばかりでなく、前からそう云う触れ込みだったものだから、よんどころなく先のお客を断って、部屋を此方へ明け渡したのだと云うことでした。
- 触れ込み ふれこみ 事先宣扬,预先宣传。あたかも「若様」の一家の人であるかのように振舞っていたばかりでなく、前からそう云う触れ込みだったものだから、よんどころなく先のお客を断って、部屋を此方へ明け渡したのだと云うことでした。
- 落ち合う おちあう 相遇,汇流,凑在一起,意见一致。 そして浜田は、今朝も十時に落ち合う手筈になっていたので、さっき私が上って来たのを、てっきりナオミが来たのだとばかり思っていた、と、そう彼は云うのでした。
十七
- 棚に上げる 束之高阁。 それから河合さん、自分のことを棚に上げてこんなことを云うのも可笑しいですが、熊谷は悪い奴ですから、注意なさらないといけませんよ。
- 眉宇 びう この青年の眉宇の間に溢れているいじらしいほどの熱情から、その決心があることは疑うべくもないのでした。
十九
- 麗らか うららか 女はそれで一切を悟ってしまったのでしょう、麗らかに晴れた秋の朝の、アトリエの明りを反射している彼女の顔は穏やかに青ざめ、総べてをあきらめてしまったような深い静けさがそこにありました。
二十
- 偲ぶ しのぶ 回忆,追忆,怀念,想念,缅怀。 欣赏,赞赏。 私はその日記のところどころに、当時のナオミのいろいろな表情、ありとあらゆる姿態の変化を写真に撮って貼って置いたのを思い出し、せめて彼女を偲ぶよすがに、長い間埃にまみれて突っ込んであったその帳面を、本箱の底から引き摺り出して順々にページをはぐって見ました。
- 降伏 こうふく 投降,降服。 己は絶対無条件で彼女の前に降伏する。
- 懸引 かけひき 临机应变。 「なに大丈夫だ、向うはあたしに惚れているんだ、あたしなしには一日も居られやしないんだから、迎いに来るに極きまっている」と、懸引をしているんじゃないかな。
- まんじり まんじり 合眼,打盹儿。 私は殆どまんじりともしないで一と夜を明かし、明くる日の午後六時頃まで待ちましたけれど、それでも何の沙汰もないので、もうたまりかねて家を飛び出し、急いで浅草へ駈け付けました。
二十一
- 衷情 ちゅうじょう 衷情,真情,真心。 私はしばらく途方に暮れていましたけれど、妹が家出をしたと聞いても別に心配をするのでもない姉や兄貴が相手では、ここで衷情を訴えたところでどうにも仕様がありません。
- 入用 にゅうよう 需要,需用;费用。 「これはきっと熊谷の所だ、あいつの所へ逃げて行ったんだ」───そう気がつくと、ナオミが昨日出て行く時に、「だってあたし、それじゃ困るわ、今すぐいろいろ入用なものがあるんだから」とそう云ったのも、成る程思いあたるのでした。
- 観音 かんおん 私はついぞ神信心をしたことなぞはなかったのですが、その時ふいと思い出して、観音様へお参りをしました。
- 手蔓 てづる 人情,门路。 线索,头绪。 浜田だったら手蔓があるから直きに報告をもたらしてくれよう。
二十二
- 一刻千秋 いっこくせんしゅう セカセカ 急急忙忙,慌慌张张。 さてそうなると、浜田の来るのが一刻千秋の思いなので、私はなおもセカセカしながら、「じゃ、おいでになるのは大概何時頃になるでしょうか? おそくも二時か三時には分るでしょうか?」
- 待ち遠しい まちどおしい 急切等待,盼望。 それが三時間どころではなく、四時間になり、五時間になり、或は半日、一日になり、二日にも三日にもなったとしたら、待ち遠しさと恋しさの余り、私はきっと発狂するに違いないような気がしました。
- 不行跡 ふぎょうせき 行为不端,品行坏,不规矩。 私は浜田にそう云われて、そのシンデレラのナオミの姿がどんなに美しかったかと思うと、はっと我知らず胸が躍って来るのでしたが、又その次の瞬間には、あまりな不行跡に呆れてしまって、浅ましいような、情ないような、口惜しいような、何とも云えないイヤな気持になるのでした。
- 熱烈 ねつれつ 热烈;火热;热情。 嘗ては私と同じように熱烈にナオミを恋した浜田、そして私と同じように彼女に背かれてしまった浜田、───この少年の、悲憤に充ちた、心の底から私の為めを思ってくれる言葉の節々は、鋭いメスで腐った肉をえぐり取るような効果がありました。
二十三
- 晩秋 ばんしゅう 晚秋,暮秋。 田圃(たんぼ)へ出ると、晩秋の空はあたかも私を慰めるように、高く、爽やかに晴れていましたが、風がひゅうひゅう強く吹くので、泣いた跡の、脹(は)れぼったい眼の縁がヒリヒリしました。そして遠くの線路の方には、あの禁物の省線電車が、畑の中をごうごう走って行くのでした。
- 気が紛れる きがまぎれる 消愁。 「ああ、その方が気が紛れますよ。僕も失恋した時分、どうかして忘れようと思って、一生懸命音楽をやりましたっけ」
二十四
- 戒める いましめる 劝戒,劝告,规劝。 「お前の母が今死んだのは、偶然ではないのだ。母はお前を戒めるのだ、教訓を垂れて下すったのだ」と、又一方からそんな囁きも聞えて来ます。
- 気受け きうけ 人缘。 それに社内での私の気受けも、前ほど良くありません。
- 精励恪勤 品行方正 せいれいかっきん ひんこうほうせい
二十五
- 汚点 おてん とにかく今までのナオミには、いくら拭っても拭いきれない過去の汚点がその肉体に滲み着いていた。
二十六
- 目論見 もくろみ 计划,策划,意图,企图。 彼女が毎晩訪ねて来るのは、単に私をからかうだけの興味ではなく、まだ何かしらもくろみがあるに違いありません。
- あわや 啊呀;眼看就要,眼看着,险些,差点儿。 からかわれるとは知っていながら、彼女が唇を向けて来るので私もそれを吸うようにすると、アワヤと云う時その唇は逃げてしまって、はッと二三寸離れた所から私の口へ息を吹っかけ、「これが友達の接吻よ」と、そう云って彼女はニヤリと笑います。
- 惑乱 わくらん 心慌意乱心中混乱以致失去判断力,也指人心或社会慌乱。 私の頭はこうして次第に惑乱され、彼女の思う存分に掻き挘られて行きました。
- いやが上にも 越发,又,益,愈。 これは彼女がいやが上にも私を懊らす計略だろう、懊らして懊らし抜いて、「時分はよし」と見た頃に突然「友達」の仮面を脱ぎ、得意の魔の手を伸ばすであろう、今に彼女はきっと手を出す、出さないで済ます女ではない、此方はせいぜい彼女の計略に載せられてやって「ちんちん」と云えば「ちんちん」をする、「お預け」と云えば「お預け」をする、何でも彼女の注文通りに芸当をやっていれば、しまいには獲物に有りつけるだろうと、毎日々々、鼻をうごめかしていましたが、私の予想は容易に実現されそうもなく、今日はいよいよ仮面を脱ぐか、明日は魔の手が飛び出すかと思っても、その日になると危機一髪と云うところでスルリと逃げられてしまうのです。
二十七
- しどけない 杂乱,散乱。 明くる日の朝、眼を覚まして見ると、ナオミはしどけない寝間着姿で、私の枕もとに坐っています。
- 精細 せいさい 详细,周详。 私はこんな明るい所で、こんなにいつまでも、そしてこんなにも精細に、自分の愛する女の目鼻を凝視したことはありません。
- 建築物 けんちくぶつ その恐ろしく長く切れた眼、立派な建築物のように秀(ひい)でた鼻、鼻から口へつながっている突兀(とっこつ)とした二本の線、その線の下に、たっぷり深く刻まれた紅い唇。
- 剃刀 かみそり 恰幅 かっぷく 身材,体格,体态。 私の手にある剃刀は、銀色の虫が這うようにしてなだらかな肌を這い下り、その項から肩の方へ移って行きました。かっぷくのいい彼女の背中が、真っ白な牛乳のように、広く、うずたかく、私の視野に這入って来ました。
二十八
- 閨房 けいぼう 闺房。 妄り みだり 不合情理;胡乱;随便,肆意。 婦人の閨房けいぼうは神聖なものである、夫といえども妄り(みだり)に犯すことはならない、───と、彼女は云って、広い方の部屋を自分が取り、その隣りにある狭い方のを私の部屋にあてがいました。
文句
私はこれから、あまり世間に類例がないだろうと思われる私達夫婦の間柄に就いて、出来るだけ正直に、ざっくばらんに、有りのままの事実を書いて見ようと思います。それは私自身に取って忘れがたない貴い記録であると同時に、恐らくは読者諸君に取っても、きっと何かの参考資料となるに違いない。殊にこの頃のように日本もだんだん国際的に顔が広くなって来て、内地人と外国人とが盛んに交際する、いろんな主義やら思想やらがはいって来る、男は勿論女もどしどしハイカラになる、と云うような時勢になって来ると、今まではあまり類例のなかった私たちの如き夫婦関係も、追い追い諸方に生じるだろうと思われますから。
愛する女に自信を持たせるのはいいが、その結果として今度は此方が自信を失うようになる。もうそうなっては容易に女の優越感に打ち勝つことは出来なくなります。そして思わぬ禍がそこから生じるようになります。
これで私たち夫婦の記録は終りとします。これを読んで、馬鹿々々しいと思う人は笑って下さい。教訓になると思う人は、いい見せしめにして下さい。私自身は、ナオミに惚れているのですから、どう思われても仕方がありません。
ナオミは今年二十三で私は三十六になります。