女生徒
女生徒
- 下卑る げびる 下贱、庸俗、没有品格、显得卑贱。(品がなく、いやしく見える。) 私は、いままで、自分が、よいしょなんて、げびた言葉を言い出す女だとは、思ってなかった。よいしょ、なんて、お婆さんの掛声みたいで、いやらしい。
- 顰蹙 ひんしゅく 颦蹙,皺眉。(不快に思って顔をしかめること。まゆをひそめること。) 悄げる しょげる 沮丧,颓丧,气馁,垂头丧气(成)。 これからは、気をつけよう。ひとの下品な歩き恰好を顰蹙していながら、ふと、自分も、そんな歩きかたしているのに気がついた時みたいに、すごく、しょげちゃった。
- 片輪 かたわ 残缺不全,不全面,不均衡。(体の一部の機能や形態に障害があること。) カアが片輪だということも知っている。カアは、悲しくて、いやだ。可哀想で可哀想でたまらないから、わざと意地悪くしてやるのだ。
- 雑木林 ぞうきばやし 杂树丛,杂树,林杂树林。 おみおつけの温まるまで、台所口に腰掛けて、前の雑木林を、ぼんやり見ていた。そしたら、昔にも、これから先にも、こうやって、台所の口に腰かけて、このとおりの姿勢でもって、しかもそっくり同じことを考えながら前の雑木林を見ていた、見ている、ような気がして、過去、現在、未来、それが一瞬間のうちに感じられるような、変な気持がした。
- 櫃 ひつ 饭桶。装饭的器具。(飯を入れておく器。おはち。) また、ある夕方、御飯をおひつに移している時、インスピレーション、と言っては大袈裟だけれど、何か身内にピュウッと走り去ってゆくものを感じて、なんと言おうか、哲学のシッポと言いたいのだけれど、そいつにやられて、頭も胸も、すみずみまで透明になって、何か、生きて行くことにふわっと落ちついたような、黙って、音も立てずに、トコロテンがそろっと押し出される時のような柔軟性でもって、このまま浪のまにまに、美しく軽く生きとおせるような感じがしたのだ。
- 物憂い ものうい 无精打采,懒洋洋。(心がはれやかでない。何となく気がすすまない。) もの憂そうに軽く頬杖して、外を通る人の流れを見ていると、誰かが、そっと私の肩を叩く。急に音楽、薔薇のワルツ。ああ、おかしい、おかしい。現実は、この古ぼけた奇態な、柄(え)のひょろ長い雨傘一本。自分が、みじめで可哀想。マッチ売りの娘さん。どれ、草でも、むしって行きましょう。
- 泣きべそ 要哭的面孔。(泣きそうになってゆがめた顔つき。) 自分から、本を読むということを取ってしまったら、この経験の無い私は、泣きべそをかくことだろう。それほど私は、本に書かれてある事に頼っている。一つの本を読んでは、パッとその本に夢中になり、信頼し、同化し、共鳴し、それに生活をくっつけてみるのだ。また、他の本を読むと、たちまち、クルッとかわって、すましている。
- しゃがむ 蹲,蹲下。(ひざを折り曲げて腰を落とす。かがむ。) かくれんぼのとき、押入れの真っ暗い中に、じっと、しゃがんで隠れていて、突然、でこちゃんに、がらっと襖をあけられ、日の光がどっと来て、でこちゃんに、「見つけた!」と大声で言われて、まぶしさ、それから、へんな間の悪さ、それから、胸がどきどきして、着物のまえを合せたりして、ちょっと、てれくさく、押入れから出て来て、急にむかむか腹立たしく、あの感じ、いや、ちがう、あの感じでもない、なんだか、もっとやりきれない。
- 寝床 ねどこ 睡铺,被窝。 朝の寝床の中で、私はいつも厭世的だ。
- 身悶え みもだえ (因痛苦而)扭动身体。 やっぱり、お父さんがいないと、家の中に、どこか大きい空席が、ポカンと残って在るような気がして、身悶えしたくなる。
- 湖 みずうみ 湖,湖水。 青い湖のような目、青い草原に寝て大空を見ているような目、ときどき雲が流れて写る。
- 味気ない あじけない 乏味,没意思,无聊。 どうも朝は、過ぎ去ったこと、もうせんの人たちの事が、いやに身近に、おタクワンのにおいのように味気なく思い出されて、かなわない。
- 慣れっこ なれっこ 习以为常,习惯。 私の小さい時からお母さんは、人のために尽すので、なれっこだけれど、本当に驚くほど、始終うごいているお母さんだ。
- 雑木林 ぞうきばやし 杂树丛,杂树,林杂树林。 台所口に腰掛けて、前の雑木林を、ぼんやり見ていた。そしたら、昔にも、これから先にも、こうやって、台所の口に腰かけて、このとおりの姿勢でもって、しかもそっくり同じことを考えながら前の雑木林を見ていた、見ている、ような気がして、過去、現在、未来、それが一瞬間のうちに感じられるような、変な気持がした。
- まにまに 随之任之、听任、由着。 このまま浪のまにまに、美しく軽く生きとおせるような感じがしたのだ。
- 雨傘 あまがさ 大丈夫、雨が降らないとは思うけれど、それでも、きのうお母さんから、もらったよき雨傘どうしても持って歩きたくて、そいつを携帯。
- 勤労奉仕 きんろうほうし 公共の目的のために、無償で労力を提供すること。特に、第二次大戦中に学生などに課された無償の労働。 出がけに、うちの門のまえの草を、少しむしって、お母さんへの勤労奉仕。
- 畑 畠 はたけ 旱田,田地。 畠道を通りながら、しきりと絵が画きたくなる。
- 小路 こうじ 小径,小胡同,小巷。 麦 むぎ 麦,麦子,小麦。 途中、神社の森の小路を通る。これは、私ひとりで見つけて置いた近道である。森の小路を歩きながら、ふと下を見ると、麦が二寸ばかりあちこちに、かたまって育っている。
- すくすく (长得)很快,茁壮成长。 しばらく経ってそこを通ってみると、麦が、きょうのように、すくすくしていた。
- 襞 ひだ 褶,襞,绉纹。 電車の入口のすぐ近くに空いている席があったから、私はそこへそっと私のお道具を置いて、スカアトのひだをちょっと直して、そうして坐ろうとしたら、眼鏡の男の人が、ちゃんと私のお道具をどけて席に腰かけてしまった。
- 繰る くる 依次翻。依次掀起纸或布等。 依次数,依次计算。(順に一つずつ数える。) 私は吊り革にぶらさがって、いつもの通り、雑誌を読もうと、パラパラ片手でペエジを繰っているうちに、ひょんな事を思った。
- 重厚 じゅうこう 沉着,稳重。 毎日毎日、失敗に失敗を重ねて、あか恥ばかりかいていたら、少しは重厚になるかも知れない。
- こじつける 牵强附会『成』。 けれども、そのような失敗にさえ、なんとか理窟をこじつけて、上手につくろい、ちゃんとしたような理論を編み出し、苦肉の芝居なんか得々とやりそうだ。
- 労わる いたわる 体贴,安慰,慰劳。怀着同情心仔细照顾,细心体贴。 これまでの私の自己批判なんて、まるで意味ないものだったと思う。批判をしてみて、厭な、弱いところに気附くと、すぐそれに甘くおぼれて、いたわった。
- 野心 やしん 野心,奢望,雄心。 でも、みんな、なかなか確実なことばかり書いてある。個性の無いこと。深味の無いこと。正しい希望、正しい野心、そんなものから遠く離れている事。
- 独創 どくそう 独創性にとぼしい。
- 欠如 けつじょ 缺乏,缺少。(欠けていること。足りないこと。) 気品 きひん 品格;气度;气派,文雅,斯文,温文尔雅。 人間本来の「愛」の感覚が欠如してしまっている。お上品ぶっていながら、気品がない。
- 既婚 きこん 已婚。(すでに結婚していること。) 口だけでは、やれ古いのなんのって言うけれども、決して人生の先輩、老人、既婚の人たちを軽蔑なんかしていない。
- 信念 しんねん 私の肉親関係のうちにも、ひとり、行い正しく、固い信念を持って、理想を追及してそれこそ本当の意味で生きているひとがあるのだけれど、親類のひとみんな、そのひとを悪く言っている。
- おっかなびっくり 提心吊胆,心虚胆怯,胆颤心惊,战战兢兢。 だんだん大きくなるにつれて、私は、おっかなびっくりになってしまった。
- 卑屈 ひくつ 卑屈,卑躬屈膝,低三下四。 ぺちゃくちゃ 喋喋不休,叨唠。 たくさんの人たちが集まったとき、どんなに自分は卑屈になることだろう。口に出したくも無いことを、気持と全然はなれたことを、嘘ついてペチャペチャやっている。
- 風呂敷 ふろしき 包袱(物を包むのに用いる正方形の布)。 植木 うえき 栽种的树,盆栽的花木。
- なんじゃらほい 「何のことだ」という意味で使う表現です。 いま、いま、いま、と指でおさえているうちにも、いま、は遠くへ飛び去って、あたらしい「いま」が来ている。ブリッジの階段をコトコト昇りながら、ナンジャラホイと思った。ばかばかしい。私は、少し幸福すぎるのかも知れない。
- 湖畔 こはん 古城 こじょう 令嬢 れいじょう 您(的)女儿,您家小姐,令爱,令千金。 良家女子。(良家の娘。) 湖畔の古城に住んでいる令嬢、そんな感じがある。
- 愛国心 あいこくしん さっきから、愛国心について永々と説いて聞かせているのだけれど、そんなこと、わかりきっているじゃないか。 ^ace37b
- ゼスチュア 做作,矫揉造作,故作姿态。虚假的的态度,装样子。 人は、いい人なんだろうけれど、ゼスチュアが多すぎる。 ゼスチュアといえば、私だって、負けないでたくさんに持っている。
- 餅は餅屋 もちはもちや 做饼还需做饼人。表示术业有专攻。 「もち屋は、もち屋と言いますからね」と、澄まして答えた。
- 清浄 せいじょう 清净,干净。 ふと、病気になりたく思う。うんと重い病気になって、汗を滝のように流して細く痩せたら、私も、すっきり清浄になれるかも知れない。
- 並木道 なみきみち 林荫道,两旁都是树的道路。
- そそくさ 慌慌张张,匆匆忙忙。 神社の森の中は、暗いので、あわてて立ち上って、おお、こわこわ、と言い肩を小さく窄(すぼ)めて、そそくさ森を通り抜け、森のそとの明るさに、わざと驚いたようなふうをして、いろいろ新しく新しく、と心掛けて田舎の道を、凝って歩いているうちに、なんだか、たまらなく淋しくなって来た。
- 出し抜け 突然,冷不防,出其不意。 だしぬけに、大きな声が、ワッと出そうになった。
- 靄 もや 霭、云气、烟霭、轻雾。 「お父さん」と呼んでみる。お父さん、お父さん。夕焼の空は綺麗です。そうして、夕靄は、ピンク色。夕日の光が靄の中に溶けて、にじんで、そのために靄がこんなに、やわらかいピンク色になったのでしょう。
- 客間 きゃくま 客厅。客房,客间。(来客を通す部屋。客用の部屋。客室。) 和服に着換え、脱ぎ捨てた下着の薔薇にきれいなキスして、それから鏡台のまえに坐ったら、客間のほうからお母さんたちの笑い声が、どっと起って、私は、なんだか、むかっとなった。
- ぎくしゃく 不利落,语言生硬,不灵活。 自分を見詰めたり、不潔にぎくしゃくすることも無く、ただ、甘えて居ればよかったのだ。
- 身を粉(こ)にする 労力を惜しまず一心に仕事をする。 私は、きっと立派にやる。身を粉にしてつとめる。
- 一切合切 いっさいがっさい
- 配合 はいごう 配合;调配;混合。 色彩の配合について、人一倍、敏感でなければ、失敗する。
- 名答 めいとう 漂亮的回答。(すぐれた答え。みごとな答え。) ロココという言葉を、こないだ辞典でしらべてみたら、華麗(かれい)のみにて内容空疎(くうそ)の装飾様式、と定義されていたので、笑っちゃった。名答である。美しさに、内容なんてあってたまるものか。純粋の美しさは、いつも無意味で、無道徳だ。きまっている。だから、私は、ロココが好きだ。
- 飽和 ほうわ あらゆる努力の飽和状態におちいるのである。
- 両切り りょうぎり 不带过滤嘴的香烟。 両切の煙草でないと、なんだか、不潔な感じがする。煙草は、両切に限る。
- 咽ぶ むせぶ 哽咽,抽噎。 呛。(煙・涙・ほこり・飲食物・香りなどで息がつまり咳が出る。むせる。) 煙に咽ぶ。 悲しみの涙に咽ぶ。
- プチブル petit-bourgeois小资,小市民。「ブルジョアジー」的缩略语。
- 窮余の一策 きゅうよのいっさく 最后一招。(苦しまぎれに思いついたはかりごと。) 「こんなお料理、ちっともおいしくございません。なんにもないので、私の窮余の一策なんですよ」と、私は、ありのまま事実を、言ったつもりなのに、今井田さん御夫婦は、窮余の一策とは、うまいことをおっしゃる、と手を拍たんばかりに笑い興じるのである。
- お高くとまる 高高在上,自命不凡,高傲。 何も、お高くとまっているのではないけれども、あんな人たちとこれ以上、無理に話を合せてみたり、一緒に笑ってみたりする必要もないように思われる。
- 諂い へつらい 奉承,阿谀,逢迎,谄媚。 あんな者にも、礼儀を、いやいや、へつらいを致す必要なんて絶対にない。いやだ。もう、これ以上は厭だ。私は、つとめられるだけは、つとめたのだ。
- 監獄 かんごく 监狱。拘禁服刑人、刑事被告人、嫌疑人、已宣判死刑者等的设施和对其进行管理的行政事务机关。 自分なんて、とても監獄に入れないな、と可笑しいことを、ふと思う。
- 厚かましい あつかましい 厚脸皮,不害羞,无耻。(恥ずかしくもなく、平気でするようす。) はいはい附いて行くお母さんもお母さんだし、今井田が何かとお母さんを利用するのは、こんどだけでは無いけれど、今井田御夫婦のあつかましさが、厭で厭で、ぶんなぐりたい気持がする。
- 厳酷 げんこく 起居 ききょ 站起活动或坐下休息。日常生活起居,作息。 でも、毎日毎日、厳酷に無駄なく起居するその規律がうらやましい。
- 渇望 かつぼう ただ眠りたい眠りたいと渇望している状態は、じつに清潔で、単純で、思うさえ爽快を覚えるのだ。
- 紛らわす まぎらわす 蒙混过去,掩饰过去。(誤魔化す) 排遣,排解。 私たちなら、侘びしくても、本を読んだり、景色を眺めたりして、幾分それをまぎらかすことが出来るけれど、新ちゃんには、それができないんだ。
- 幾日 いくにち 许多天。(長い期間。) 多少天,几天。(何日间。) 床にはいって目をつぶっているのでさえ、五分間は長く、胸苦しく感じられるのに、新ちゃんは、朝も昼も夜も、幾日も幾月も、何も見ていないのだ。
- 枯れる かれる 成熟,老练,圆熟。 この作者のものの中でも、これが一ばん枯れていて、私は好きだ。 あの人の字はなかなか枯れている。
- めきめき 显著,迅速。(目に見えて、進歩、発展するさま。) めきめきと、おとなになってしまう自分を、どうすることもできなく、悲しい。
- 原っぱ はらっぱ 杂草丛生的旷野,空地。 庭の向こうの原っぱで、おねえちゃん! と、半分泣きかけて呼ぶ他所の子供の声に、はっと胸を突かれた。
- 慕う したう 敬慕,敬仰,景仰。敬佩他人的学问,人品等而意欲效仿。 爱慕,怀念,想念,思慕,思念。 私を呼んでいるのではないけれども、いまのあの子に泣きながら慕われているその「おねえちゃん」を羨しく思うのだ。私にだって、あんなに慕って甘えてくれる弟が、ひとりでもあったなら、私は、こんなに一日一日、みっともなく、まごついて生きてはいない。
- 即興 そっきょう ドイツ語の「おまえ百まで、わしゃ九十九まで」という意味とやらの小唄を教えて下さったり、星のお話をしたり、即興の詩を作ってみせたりした。
- ステッキ stick手杖,拐杖。 ステッキをつく。
- ぱちくり 眨眼。(目を大きくしばたたくさま。驚いたりあきれたりする時の眼の表情にいう。) あのパチクリをやりながら一緒に歩いて下さった、よいお父さん。
- 首肯 しゅこう 点头肯定。 こうして、じっと見ていると、ほんとうにソロモンの栄華以上だと、実感として、肉体感覚として、首肯される。
- 中腹 ちゅうふく 半山腰。 ふと、去年の夏の山形を思い出す。山に行ったとき、崖の中腹に、あんまりたくさん、百合が咲き乱れていたので驚いて、夢中になってしまった。
- 坑夫 こうふ 矿工,采矿工人,采煤工人。 瞬く またたく 眨眼。 そのとき、ちょうど近くに居合せた見知らぬ坑夫が、黙ってどんどん崖によじ登っていって、そしてまたたく中に、いっぱい、両手で抱え切れないほど、百合の花を折って来て呉れた。
- 風鈴 ふうりん 风铃。 山形の生活、汽車の中、浴衣、西瓜、川、蝉、風鈴。
- 都度 つど 每次。每当。每逢。随时。 お母さんは、その都度、どんなに痛い苦しい思いをするか、そんなものは、てんで、はねつけている自分だ。
- 忍従 にんじゅう 忍受,隐忍服从。 捌く さばく 熟练使用(一般人很难用好的东西)。妥善处理。 むかしの女は、奴隷とか、自己を無視している虫けらとか、人形とか、悪口言われているけれど、いまの私なんかよりは、ずっとずっと、いい意味の女らしさがあって、心の余裕もあったし、忍従を爽やかにさばいて行けるだけの叡智(えいち)もあったし、純粋の自己犠牲の美しさも知っていたし、完全に無報酬の、奉仕のよろこびもわきまえていたのだ。
- 背戸 せど 厨房门,后门,后便门。 ふと、この同じ瞬間、どこかの可哀想な寂しい娘が、同じようにこうしてお洗濯しながら、このお月様に、そっと笑いかけた、たしかに笑いかけた、と信じてしまって、それは、遠い田舎の山の頂上の一軒家、深夜だまって背戸でお洗濯している、くるしい娘さんが、いま、いるのだ、それから、パリイの裏町の汚いアパアトの廊下で、やはり私と同じとしの娘さんが、ひとりでこっそりお洗濯して、このお月様に笑いかけた、とちっとも疑うところなく、望遠鏡でほんとに見とどけてしまったように、色彩も鮮明にくっきり思い浮かぶのである。
- 堕落 だらく 堕落,走下坡路。 私たち、こんなに毎日、鬱々したり、かっとなったり、そのうちには、踏みはずし、うんと堕落して取りかえしのつかないからだになってしまって一生をめちゃめちゃに送る人だってあるのだ。
- 見晴らし みはらし 眺望,景致。开阔地环视到远处。 私たちは、決して刹那主義ではないけれども、あんまり遠くの山を指さして、あそこまで行けば見はらしがいい、と、それは、きっとその通りで、みじんも嘘のないことは、わかっているのだけれど、現在こんな烈しい腹痛(ふくつう)を起しているのに、その腹痛に対しては、見て見ぬふりをして、ただ、さあさあ、もう少しのがまんだ、あの山の山頂まで行けば、しめたものだ、とただ、そのことばかり教えている。きっと、誰かが間違っている。
- 崇高 すうこう ニヒル 无,虚无的。漠不关心的。冷酷的。 心の底まで透明になってしまって、崇高なニヒル、とでもいったような工合いになった。
- うっとり 因神魂颠倒而发呆状。 蒲団が冷いので、背中がほどよくひんやりして、ついうっとりなる。
- 真夜中 まよなか 半夜,三更半夜,深夜。(夜のもっとも更けたとき。深夜。) よくこんな真夜中に、お庭を歩きまわっているけれど、何をしているのかしら。カアは、可哀想。けさは、意地悪してやったけれど、あすは、かわいがってあげます。
- とろとろ 打盹儿,打瞌睡。 とろとろ眠る。
おやすみなさい。私は、王子さまのいないシンデレラ姫。あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか? もう、ふたたびお目にかかりません。
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