人間レコード
人間レコード
阅读时间:2024年9月15日
声明:作者观点不代表本人观点。
感想
1920年代を背景にした短編小説で、推理要素はなく、物語は夢野式の暗黒的かつ変則的なスタイルが一貫している。ソビエト連邦は、XX思想を日本に密かに広めるため、薬物の作用を使って人間の脳髄に植え付ける。つまり、人間の体をレコードのように利用し、XX思想を「刻印」するのだ。この重なり合った「レコード」は日本に送られ、薬物によって大々的に「再生」される。そして使い尽くされた後、人間レコードは当然のように「物理的に廃棄」される。作者はその時代の暗い歴史を暴露し、自己の右翼的な意見を表明している。物語の中で、人間レコードとして描かれるその西洋人は、さまざまな精神薬物に苦しみ、最終的には大使によって一発の銃弾で命を奪われ、その哀れさには心を痛める。
語彙
- 弾力 だんりょく 綺麗に剃り上げた頬の皺は、濡れた紙のように弾力を失って、デッキの上からトロンと見据えた大きな真珠色の瞳は、夢遊病者のソレのようにウットリと下関駅の灯(ひ)を映している。
- 朝鮮 ちょうせん その中に、三等船室の方から一人の背の高い、モーニングを着た、顔にアバタのある朝鮮人らしい紳士が降りて来るのを見ると、初めて安心したらしくチョコチョコと歩き出して、そのアトを追いかけ始めた。
- よちよち 摇摇晃晃,东倒西歪。 今の小さな西洋人が、新しいハンカチで額の汗を拭き拭き八時三十分発急行列車富士号の方へヨチヨチと歩いて行くのを見送ると、直ぐに公衆電報取扱所へ走り寄って、前から準備して書いていたらしい電報を一通打った。
- でっぷり 肥胖,胖墩墩。 打ってしまうと朝鮮紳士は自分のうしろに順番を待っているらしいデップリした、色の黒い、人相の悪い中年の紳士を振り返ってジロリと睨み付けた。
- 一重瞼 ひとえまぶた 单眼皮。 どっしり 稳重,庄重。 白々と肥満した恰好から、切れ目の長い一重瞼まで縦から見ても横から見てもシナ人としか思えなかったが、その前にツカツカと近づいた今の人相の悪い紳士がうやうやしく一礼すると、そのシナ人風の巨漢(おおおとこ)は鮮やかなドッシリした日本語でしゃべり出した。
- 泥を吐く どろをはく 招供,坦白交待。 警察で厳しい取調べを受け、ついに泥を吐く。
- 任命 にんめい 古い手ですが……旅券は完全なもので、東京××大使館雇員(やとい)を任命されて新(あらた)に赴任する形式になっております。ここに持っておりますが。
- 買収 ばいしゅう 收买,收购,购入。 買収してみたかい。
- 精通 せいつう ただタイプライターが上手で、日本文字に精通しているというだけの爺としか見えませんから、仕方なしに××領事の了解を経てコチラへ立たせた訳ですが、しかし、どう考えても怪しい気がしてなりませんので取敢えず閣下に彼奴の写真をお送りしておいて、ここまでアトをつけて来た訳ですが……
- 着眼 ちゃくがん 着眼,注目。 ウム。君の着眼は間違いない。彼奴は密使に相違ないと僕も思う。
- 皮切り かわきり 起头,开头,开始,开端,初次,第一次。 この頃日本の機密探知手段が極度に巧妙になって来たのでヤリ切れなくなって使い始めたものに違いない。事によると今度が皮切りかも知れんて……
- 肋骨 あばらぼね 老人の胸を掻き開いて、肋骨の並んだ乳の上に無色透明の液二筒と茶褐色の液一筒と都合三筒ほど、慣れた手付で注射をした。
- 蓄電池 ちくでんち 器械を列車の蓄電池と繋ぎ合わせて開け放していますから……まだ五十分ぐらいはフイルムが持ちますよ。今の貴方の声だって這入ってますよ。
- ソビエット Soviet わかります。ソビエットの宣伝でしょう。
- 地下室 ちかしつ この前コイツの宣伝レコードが日本に紛れ込んだ事がある。そいつを機密局の地下室で聞かせてもらったことがあるが、声までソックリだよ。人間レコードって恐ろしいもんだね。
- 連盟 聯盟 れんめい 連盟に加わる。
- 分割 ぶんかつ 分割;瓜分;分期付款。 シナ分割の過程に割込んで新しい地域を掴む機会を得んとしている準備工作に過ぎない。
- 治下 ちか 统治之下。 奮起 ふんき シナをしてソビエット政府の光栄ある治下に置き、彼等虎狼(ころう)の爪牙(そうが)から免れしむることは一に新興×××××諸君の奮起力にかかっている。
- 号外 ごうがい 号外号外。号外号外。号外号外。東都日報号外。吾外務当局の重大声明。ソビエット政府に対する重大抗議の内容。外交断絶の第一工作……号外号外。
文句
「でもあの小ちゃな爺さんは気の毒ですね」
「気の毒ぐらいじゃない。きょうの号外を見たら××大使に殺されやしまいかと思うんだがね。裏切者という疑いで……」
「エッ。殺されるんですか。何も知らないのに……」
「殺されるとも。ソビエットの唯物主義の奴等は血も涙もないんだからね。政治外交上の問題で少しでも疑わしい奴は片っ端から殺して行くのが奴等の方針だよ」
「しかしシナ人の考えているきょうさん主義は、ホントウのソビエット主義とはすこし違うんだよ」
「ヘエ。ドンナ風に違うんですか」
「ホントのきょうさん主義は要するに『他人のものは我が物。わが物は他人のもの』というんだろう」
「そうですね。まあそうですね」
「ところがシナ人のは違うんだ。『他人の物は我が物。我が物は我が物』というんだから」
「アハハハハ」
「何だ。お前、ふるえてるじゃないか」
「ふるえてやしません。ソビエット帝国主義の宣伝の狡猾(こうかつ)さが癪に触っているだけです」
「アハハ。ソビエット帝国主義はよかったナ。この宣伝にだまされてうっかりソビエットの治下に這入ったら最後、その国の労働者農民は、今のソビエットと同様に、運の尽きだからね。資本主義の国が人民から搾(お)しぼるものはお金だけ……ところがソビエット主義が人民から搾しぼり取るものは血から涙から魂のドン底までと云っていいんだからね」
再次声明,作者观点不代表本人观点。