黒手組

阅读时间:2023年8月24日

(上)顕れたる事実

  1. 跳梁 ちょうりょう 驰骋,奔跑,猖獗,横行。 賊 ぞく 当時都には「黒手組」と自称する賊徒(ぞくと)の一団が人もなげに跳梁していまして、警察のあらゆる努力もその甲斐なく、昨日は某の富豪(ふごう)がやられた。今日は某の貴族が襲われたと、噂は噂を産んで、都の人心は兢々(きょうきょう)として安き日もなかったのです。

  2. 伯父 おじ (父方)伯父;(母方)舅父。也可以用称呼比自己年长很多的男性。(父または母の兄。おじ。“伯父”は自分より年配の男性を呼ぶときにも使う。) 伯母 おば

  3. 身代金 みのしろきん 赎金。 記事が簡単でよく分りませんけれど、何でも娘の富美子が賊に誘拐され、その身代金として一万円を奪われたということらしいのです。

  4. 古狸 ふるだぬき 老狐狸精,老猾头。(年をとって、経験を積み、悪がしこくなった人。) 一万円の身代金はとられる、娘は返して貰えないというのでは、流石実業界では古狸とまで云われている策士の伯父も、手のつけ様がないのでしょう。

  5. 青二才 あおにさい 小屁孩,小毛孩子,黄口小儿。(年若く経験に乏しい男をののしっていう語。) いつになく私の様な青二才を手頼にして何かと相談をする始末です。

  6. 目鼻がつく はな 初见端倪。 そこで、当然私は友達の明智小五郎のことを想出しました。彼なればこの事件にも何とか眼鼻をつけて呉れるかも知れません。そう考えますと、私は早速それを伯父に相談して見ました。伯父は一人でも余計に相談相手の欲しい際ではあり、それに私が日頃明智の探偵的手腕についてよく話をしていたものですから、尤も伯父としては大して彼の才能を信用してはいなかった様ですけれど、兎も角呼んで来て呉れということになりました。

  7. 手交 しゅこう 亲手交给。(公式の書類などを、じかに手わたすこと。) この牧田というのは身代金手交の当日伯父の護衛役として現場へ同行した男なので、参考の為に伯父に呼ばれたのでした。

  8. 繁み しげみ 草木繁茂处。 繁みの中に腹這いになって、ピストルの引金に指をかけて、じっと御主人の懐中電燈の光を見詰めて居りました。

  9. 黙想 もくそう 默想,冥想。(黙って考えにふけること。黙思。) 明智はここで又黙想を始めました。

  10. 吟味 ぎんみ (仔细)斟酌,考虑;拣选,选择。(物事を詳しく調べて選ぶこと。) 葉書 はがき 明信片。(紙片などに書きつけた覚書。) 私もその葉書を手に取って十分吟味して見ましたが、何の変てつもない、如何にも少女らしい要でもない文句を並べたものに過ぎません。

  11. 埋没 まいぼつ 埋藏,掩埋,埋没(人才)。 私は例の書物の山の中に埋没して得意の瞑想に耽っている彼を想像しながら、心安い間柄なので、一寸煙草屋のおかみさんに声をかけて、いきなり明智の部屋への階段を上ろうとしますと、

    「あら、今日はいらっしゃいませんよ。珍しく朝早くからどっかへ御出かけになりましたの」

     といって呼止められました。驚いて行先を訊しますと、別に云い残してないということです。

  12. 熨斗を付ける のしをつける 情愿奉送。(丁重に贈り物をする意味。) 私は色々考えた結果、極くおだやかにお嬢さんを取戻す工風をしたのです。つまり、賊の方から熨斗をつけて返上させるといった方法ですね。で、私と『黒手組』との間にこういう約束が取交わされたのです。

  13. 隅に置けない すみにおけない 不可轻视,不可小看,有两下子。(その人が意外に経験豊かであったり、才能、知識などがあったりして、侮れない。) ハハ……、あんたも却々隅へ置けない。いや、あんたが先の人物さえ保証して下さりゃ、娘をさし上げまいものでもありませんよ」

  14. 寸志 すんし 一点心意(愿),寸心,寸意。 伯父は明智を玄関まで送り出して、お礼の寸志だといいながら、彼が辞退するのも聞かないで、無理に二千円の金包を明智の懐へ押し込みました。

(下)隠れたる事実

  1. 突飛 とっぴ 反常,离奇,古怪,突然。 第二は、これは少し突飛な想像かも知れないが。
  2. 綿密 めんみつ 绵密,周密,详尽。 この四つは現場を綿密に検べて見たら分る事柄だ。
  3. 差し詰め さしづめ 结局,总之,归根结底。さしずめ第五と第六の場合が残るばかりだから、非常に捜査範囲を狭めることが出来る訳だ。 目前,当前。(さしあたって。) 差し詰め食うには困らない。 
  4. 焦らす じす 使焦急,(使)着急。 明智はこう云ってコーヒを一口舐めました。そして、何だかじらす様な目附をして私を眺めるのです。併し、私には残念ながらまだ彼の推理の跡を辿る力がありません。
  5. 畸形 きけい 一方は日本人としては珍しい大男で、一方は畸形に近い小男だね。
  6. 時節柄 じせつがら 鉴于时势,鉴于目前局势;鉴于这种季节。 まあ、それも時節柄無理もない話だけれど、若し君がいつもの様に冷静でいたら、何も僕を待つまでもなく、君の手で十分今度の事件は解決出来ただろうよ。これには『黒手組』なんてまるで関係ないんだ。